上記のように言われると前村君は光栄だが、彼に関して言えば少し違うと思う。前村君は少年時代も今も、他人との競争を好む性格ではない。まじめにコツコツ勉学していて、栄達よりも勉学、研究そのものが何より好きで、白い巨塔のように大きな野心を持ちがむしゃらに突き進むタイプでは絶対にないのだ。長崎大学医学部の教授になられたのも秘話がある。東大の講師を務めていた彼には、世界的レベルでの評価も高くすでに複数の研究機関からリーダーとしての引き抜きはあったと言われている。彼が長崎大学に赴任されたのは、実はラサール時代の僕らの先輩で(鶴丸高校の掲示板にも書いていたが)ラサール寮生の
家庭教師をボランティアで務め、僕らもお世話になった鹿児島大学医学部の先生が、その後長崎大学医学部循環器内科の準教授になられていた。その御方が、前村君の破格にレベルの高い学術論文を読まれ、是非に長崎大学医学部に彼を引き抜きたいと献身的な御努力をされ、前村君の引き抜きに成功したというのがラサールの卒業生誰もが認めるホントの話なのだということを御了解いただきたいのである。福岡市で総合病院の院長を務めている自分は、仕事柄彼とお会いすることは時々あり、実は彼の奥様と自分の愚妻が親交のあることからも家族同士で時々お食事をするのであるが、相手の話を終わりまでじっくりと聴き皆を楽しませてくれるお人柄の良さはあの当時と少しも変わらぬお姿に、変化に対応する能力だけが賛美されやすい現代社会のなかでは、名誉の孤高に思えるのである。
富山大循環器科の絹川教授は私の高校時代、
数学の天才として神のような存在でしたよ。高1の頃からほぼ毎月大学への
数学の宿題の最もエレガントな解答に選ばれ、彼の解答が毎回のようにページをまたいで掲載されていました。頭が良いというのは彼のことを言うと思います。
話は少し変わるが情報では東大医学部に落ちるも防衛医大に合格された優秀で真面目な現役生徒さんがおられたとのこと。心から祝福申し上げたい。しかも推薦枠ではなく、センターや一般試験での合格であると伺い、ラサールの質実剛健の精神はいまも強くしなやかに生きつづけているのだということをラサール卒の愚直な先輩医師として感謝申し上げたいと思う。
前村教授や絹川教授、あるいは街医者の小生が
東大や九大に合格したあの頃は、いまほど予備校システムが発達しておらず、わけのわからん推薦入試もなかったので、本人の能力と努力に比例して受かる大学のランキングも決まっていたが、あれから30年以上が過ぎて、いまや国公立大学の推薦入学の割合は約半数に達しようとしている。国立医学部、難関帝大の現役合格を一般入試でめざす現役生にとって、いまほど難関の時代はないのかもしれない。実力主義のラサールにとっても今は受難の時代であると考えている。
このような時代背景にあってラサールの優秀な生徒さん方は二つの道を選ぶのに悩むのかもしれない、あくまで一般入試での難関合格をよしとし、たとえ浪人することになろうとも実力試験で受かろうと死に物狂いになること、もうひとつは、より安直な推薦枠での合格を目差し自分の人生を早く確立しようとすること、、、
今の時代であればどちらの道を選ばれても御本人に選択権はあるのだから何も言わない。だが
個人的な思いとしては、たとえどれほど苦しい道であろうとも推薦を使わずに合格された生徒さんのほうに、より多くの拍手を与えたいと思うのだ。将来、東大医学部が推薦枠を始めた場合には、推薦で東大に合格された生徒さんよりも一般試験で落ちても自治医大や防衛医大に合格された生徒さんをより多く祝福したいと思うだろうね。
小生のようなやぶ医者が言う言葉ではないかも知れぬがかつてのラサールの天才たちで今は
教授職にあられる先生方のお気持ちもおそらく自分に近いものがあるだろうと考えている。